酒井健著 『ロマネスクとは何か』

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酒井健著の『ゴシックとは何か』に続き、『ロマネスクとは何か』を読了した。

この2冊が興味深いのは、酒井氏が建築史家ではなく、フランス現代思想研究者という立場で、精神史(あるいは宗教史)を中心にすえて、この二つの時代を読み解いていることである。但し、建築史家ではないために、建築的な言及についてはあまり詳しくは語られていない。

今回、『ロマネスクとは何か』については、簡単に要約できるような内容ではないので、安易に要約することは避けるが、もっとも興味深かったことは、クレルヴォーのベルナルドゥスについてふれた点であった。べルナルドゥスはシトー会に新たな息吹を与えた大立者であったが、その彼が当時から、クリュニー会により建設された修道院の豪奢な装飾の意味がわからなかった、ということである。

クリュニー会は、シトー会とは異なり、肉体労働は農民に任せ、祈りの環境を豪奢に整えていくような享楽的な修道会であった。その修道院の装飾も柱頭には異種異教の図像などが刻まれていたのだが、当時からそうした装飾の意味がわからなくなっていたというのである。そうした装飾を施すためには、多くの財力が必要であったから、ベルナルドゥスは浪費であるとも考えた訳である。

わたしも37年前、初めてヨーロッパを旅した途中、南フランス、プロヴァンス地方にあるシトー会のル・トロネ修道院(写真上下)を訪ねた。磯崎新さん+篠山紀信さんによる『建築行脚』というシリーズの書物で取り上げられたことで、日本でも当時、有名になった修道院である。この修道院がなぜこれほどまでに簡素で無装飾なのか、クリュニー会とシトー会との対比からよく理解できる。よって、シトー会の修道院は、現代建築により近しい建築に思えるが、わたしは、シトー会の建築もよいが、異教(キリスト教以前の宗教ほか)を取り込もうとした装飾的なロマネスク建築にも本書で興味をもつようになれたため、ロマネスク建築をより広範に深く理解できるようになれた気がする。

酒井氏によるロマネスク、ゴシックに関する著書は、建築という「もの」に現れる以前の歴史、精神などを知る上で内容豊かな著書であり、建築史家による建築史書を補足する著書となっており、西欧の中世建築史を理解するための基本文献であるといってよさそうである。

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*「ゴシック」に関するメモ(『ゴシックとは何か』からのメモ)でも書いたが、中世期の絵画は、描き手が画面の中に入った状態で描いていく。そうすると、たとえば、皿の形は真上から見た形態であったり、斜めから見た形態であったりすることが同じ画面に同時存在することになる。
これは、近代のキュビズムの多視点を定着させた絵画の方法と近似している。ピカソらは、中世の絵画からキュビズムのヒントを見出したのではないか?


by kurarc | 2021-03-05 18:22 | books(本(文庫・新書)・メディア)