『まれびとたちの沖縄』(与那原恵著)を読む

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『まれびとたちの沖縄』(与那原恵著)は、4人の沖縄への「まれびと」をテーマとした4つの物語である。わたしはまず田島利三郎と田辺尚雄の章を読んだ。


第1章に登場する田島利三郎のことを知る日本人は、沖縄について相当詳しくない限りいないのではないだろうか。沖縄学の父と呼ばれる伊波普猷の教師だった男である。東京から沖縄の尋常中学校に赴任した田島は単なる教師ではなかった。田島は皇典講究所在学中(のちの國學院大学)、沖縄に琉球語で書かれた50巻の文書があることを学友から聞いており、沖縄に渡る前から興味をもち、沖縄に移り、それが『おもろさうし』であることを知り、研究に着手した男である。


当時、尋常中学校の教師はすべて本土の人間であり、中には、沖縄の学生たちに普通語(東京の言葉)を励行させるために、英語科を廃止しようとするなどといったことを考える校長らと生徒たちは衝突をする。英語科廃止に反対した教頭や田島らは休職や辞職に追い込まれることになり、田島は沖縄を去り上京。伊波は、東京帝国大学言語学科入学し、本郷西方町に居住した。そこに、困窮した田島が現れ、いままでの『おもろさうし』研究成果を伊波に託し、放浪の旅へと去っていくが、その放浪生活は予想外の展開をし、伊波も苦闘が待ち受けていた・・・


本書は、この第1章を読むだけでも価値がある。その後、伊波は第2次大戦を東京で迎え、最後まで田島の『おもろさうし』研究(現在、琉球大学に所蔵されているという)をカバンに大切に仕舞い込み、焼夷弾からそれを守るため、壕に埋め、守り抜いたという。「沖縄学」はこうしてつながっていき、現在があるのである。伊波にとって、沖縄研究は命より大切な時代だったということである。


*本書を読んでいて、中学生の頃観たNHKの連続小説ドラマ『風の御主前(うしゅまい、あるいは、うしゅまえ)』を思い出した。このドラマはわたしの記憶の中に残る八重山(石垣島)風景の原点と言えるもので、主人公、岩崎卓爾(石垣島の測候所勤務の傍ら、八重山の民俗、歴史を研究した人物)を演じた俳優の高橋幸治さんが特に印象に残っている。もしかしたら、わたしが大学卒業後、沖縄に行ったのは、このドラマの影響かもしれない。


by kurarc | 2021-05-10 21:27 | books(本(文庫・新書)・メディア)