『占領軍住宅の記録(上)』(小泉和子編)通読

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『占領軍住宅の記録(上)』(小泉和子編)を通読した。5月25日のブログでも取り上げたが、戦後、GHQの建設要請でつくられた住宅をはじめとする施設全般が『デペンデントハウス』という書名でまとめられ、1948年に日本で出版された。デペンデントハウス(ディペンデンツ・ハウジング)は家族用住宅を意味する。『占領軍住宅の記録(上)』ではそのハウジング全容に関する内容を取り上げている。


色々な意味で興味深い内容であったが、まず第一に印象に残ったのは、住宅の簡素さとその配置計画である。規模はかなり大きいが、いわゆる最小限住宅に近い意匠であり、当時のアメリカ人には不満もあったのではないかと思われる住宅に見える。その一方、ワシントンハイツなど敷地は一住戸300坪あり、その住宅を取り巻く環境や街路の整備方法、たとえば、道路に曲線を用いたり、クルドサックのような袋小路をつくるなど、当時の日本では考えられないような住宅の配置計画が行われていることは特出される。


また、プランや立面、断面、構造において、当時の日本の技術とアメリカの慣習などを取り入れた和洋折衷の住宅が建設されていること、設計と監理をまったく別の人間が行なっていること、住宅だけを建設するのではなく、クラブハウス、学校、礼拝堂、劇場、診療所、消防所、使用人宿舎、スーパーマーケット他にいたるまで建設され、いわば、一つの都市を建設したといえる計画であったことは興味深い。屋根勾配を45/100に統一したり、筋交いは内壁にのみ入れるなど規格化を進め、デザインにおいてもすべてアメリカ的意匠にするのではなく、日本の意匠を取り入れていることなど、柔軟な計画であったことも特出されてよい。


この書物の最後に「栞」というあとがきがあり、そのなかで、このデペンデントハウスの設計において、チーフデザイナーであった網戸武雄の証言が掲載されている。貴重な証言が多いが、建築的に興味深いのは、『BUILT IN USA-SINCE 1932』とう書物の紹介についてであった。これは、網戸がデザインブランチのチーフ、クルーゼ少佐(建築家)からもらったものということだが、この書物のなかに、アメリカの最小限住宅の事例が掲載されていたということ、また、そのなかに、リチャード・ノイトラの設計案他があり、それらのプランが計画にあたって参照されたということである。


その他、数多くの興味深いエピソードがあり、あげるときりがないため、この辺にしておく。再び国会図書館に行き、建築のディテールなどについて、改めて眺めてみたくなった。


*偶然にも、近著(2021年5月25日出版)に『占領下日本の地方都市ー接収された住宅・建築・都市空間』(大場修著、編集)がある。合わせて読むべきものだろう。


by kurarc | 2021-06-08 19:32 | books(本(文庫・新書)・メディア)