日本海 海洋世界のカナリア

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ここ23年、新潟、富山や金沢の旅を続けてきた。日本海側の都市や文化に興味をもつようになったからである。そのきっかけは、2008年冬、新潟の新発田で開催される日本建築家協会(保存問題委員会)のシンポジウムの幹事を担当することになり、月1回、新発田に通うようになったことからである。


新発田には魅力的な木造建築が残り、アントニン・レーモンドの設計した教会も残っているなど、情緒ある街であったこと、また新潟に立ち寄り日本海を眺めていると、日本海がヨーロッパでいうと大西洋に近い感じがして、かつてリスボンに住んでいたこともあり、大西洋に面したポルトガルと意識の中で重なりはじめたこと、さらに、昨年、金沢に行ったおりに、金沢の海みらい図書館に立ち寄ったが、郷土史のコーナーの中に沖縄に関する書物が数多くあり、北前船で日本海と沖縄がつながっていることを改めて気づかされ、余計に興味をもつようになったのである。


日本海の文化的な考察も大切だが、日本海とはそもそもどのような海であるのか知るために、昨日も紹介したブルーバックスの『日本海 その深層でおこっていること』(蒲生俊敬著)を一気に読了した。本書は、日本海を題材にした化学海洋学の入門書といったもので、日本海という世界の中でも非常に特殊な海を海洋科学ミステリー仕立てにして、初学者にもわかりやすく説明してくれている。


本書でもっとも興味深かったことは、海には暖流や寒流といった海流があることは誰も知っていると思うが、海にはそればかりでなく、上下方向の流動、循環があり、そのことが海の環境維持に不可欠であるということ。


海水には熱塩循環といって熱と塩分によって循環が生じている。海水は冷やせば冷やすほど重くなり、さらに塩分が高いほど重くなる性質がある。重くなった表面海水は重力の作用で深層に向かい沈んでいく。逆に、深層の海水はその運動によって表面に向かって湧き上がるという循環がおこる。この運動により表層の有機物は深層へと移動し、酸素が深層へと送り込まれるのである。


こうした海水の流動は、たとえば、ラブラドル海、北大西洋からウェッデル海、南極を経てインド洋と太平洋に移動し、移動中、海水は温められて再び北大西洋に戻っていく。この循環は「ブロッカーのコンベアーベルト」(下図、地層科学研究所HPより借用、海洋科学者のウォーリー・ブロッカーの名前より)と呼ばれ、元に戻るまでに1000~2000年の時間を要するという。


日本海ではこうした循環が日本海内で行われている。(日本海ではその循環にかかる時間は100~200年程度と予測されている)それは、日本海が対馬海峡、津軽海峡、間宮海峡、宗谷海峡といった狭い海峡に閉じ込められているからであり、いわば、大海の中に閉じ込められた風呂桶のような海だからである。


このような理由から、日本海は非常に敏感な海である、ということは初学者のわたしでもすぐに気づかされる。循環する時間が短時間であるということは、気候変動による海水温の変化、大気中の二酸化炭素濃度の変化他が生じた場合、その変化がすぐに顕在化する海だということである。そして、近年の異常気象により、日本海の酸素濃度は急激に減少しているという。先にも述べたように、温暖化により海水温が上昇することは、重たい海水の量が減少することであり、海水の循環を妨げるからである。


本書は上記のほか、日本海に起こる様々な現象のみならず、日本海の文化的、歴史的な意義も解説してくれている。本書を一読した結果、海におこる物理的、化学的な現象を頭の中で想像することができるようになった気がする。本書は、日本海だけでなく海に興味を持つものにとって最良の入門書と言えそうである。


*海洋世界のカナリアとは、こういうことである。炭鉱作業員はカナリアを入れたカゴを坑内へ携える。カナリアはメタンや一酸化炭素をいち早くキャッチして、その異常(カナリアが鳴くのをやめる)を知らせてくれる鳥である。日本海も大海のなかのカナリアのような海だということである。(本書より)


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by kurarc | 2021-06-28 19:37 | books(本(文庫・新書)・メディア)