ケース・スタディ・ハウスのプロブレマティーク

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『ケース・スタディー・ハウス プロトタイプ住宅の試み』(岸和郎・植田実監修)を読了。現在、自分なりに日本の戦後、特に1945年から1970年代あたりまでの建築(住宅を中心とする)の再確認を行なっている。わたしの世代は直接影響を受けた訳ではないが、戦後すぐに活躍した建築家たちに多大な影響を与えたアメリカ、カリフォルニアで展開されたジョン・エンテンザ(建築雑誌「アーツ&アーキテクチャー」の編集者)によるケース・スタディー・ハウスというプロジェクトの復習を兼ねて、本書を読むことに。


本書が優れていることを簡潔に述べれば、ケース・スタディー・ハウスというプロジェクトを相対化している点である。その遺産の正負両面(あるいは功罪)を浮き彫りにし、改めてこの画期的なプロジェクトの評価を行なっている点で本書は意義深い。名編集者である植田実さんが関わっていることも大きいが、建築家、研究者(レイナー・バンハムら)、写真家、ケース・スタディー・ハウスの住まい手の参加により本書は構成されており、異なる立場から幅の広い意見が掲載され、ケース・スタディー・ハウスについて現在、どのような視点で捉えるべきなのかが明確に示されている。


現在でもチャールズ・イームズの自邸兼スタジオ(ケース・スタディ・ハウス#8)が様々なメディアで取り上がられることもあるが、全体36のプロジェクトは建築家やクライアントによってその住宅の質やコンセプトにかなりの開きが生じ、当初の低コストによる近代住宅プロトタイプの開発という目標を逸脱する住宅も生じ、このプロジェクトを一括りに語ることは困難となっている。また、プロジェクトに選定された建築家は、エンテンザの好みが反映されるなど、このプロジェクトに参加できなかった建築家たちも数多く存在した。


その他、様々な問題を指摘できるが、現在、このプロジェクトを復習する意義は、そうしたエンテンザから排除された建築家たちを踏まえ、このプロジェクトの意義と負の側面両方を冷静に判断できる状況にあるということである。(特に負の側面についてはケース・スタディ・ハウスの住人でもありこのプロジェクトに写真家として関わったジュリアス・シュルマンへのインタビューの中で明らかにされている。)


わたしのような建築を設計する立場からこのプロジェクトを俯瞰すると、やはりイームズの自邸兼スタジオ(下写真)においてなされたすべての部材を既成のカタログから選択し組み立てた(アッセンブルした)というラディカルな建築方法には驚きを隠せない。自らの自邸であるということから可能な方法であったと思われるが、コンセプトが先行し、建築が計画され、完成されるという通常ではありえない方法で成立した建築であるといえるだろう。さらに、この自邸は当初の計画(下模型写真)から内部空間を最大限にするため、根本的にデザインが変更され、竣工したが、その際、新たに1本の鋼材が増えただけであったということにも驚かされる。


先にも述べたように、ジュリアス・シュルマンへのインタビューの中で、エンテンザが受け入れなかった建築家たちに言及しているが、そうした排除された建築家たちを踏まえながらこのプロジェクトの評価を改めて捉え直すべきであるし、日本と同様にモダニズム建築を移植したアメリカという文脈のなかで、なにが問題となったのか、モダニズムの移入(移植)について日本ではどのような問題が発生したのかについても復習すべきであることを本書は教えてくれたように思う。


*イームズハウス(ケース・スタディ・ハウス#8)については2019年3月29日のブログに関連する記事あり。


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by kurarc | 2021-06-30 19:36 | books(本(文庫・新書)・メディア)