フランソワ・デュボワ Medita Music

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いつものようにカバンには常に文庫か新書を忍ばせている。今日は、ブルーバックス『作曲の科学 美しい音楽を生み出す「理論」と「法則」』というマリンバ奏者であるフランソワ・デュボワ氏による著書を読んだ。


本書が興味深いのは、本書のはじめに、ポピュラーミュージックのような作曲法を解説する目的ではなく、むしろ、メロディーラインをつくらないような、エンタテインメント性をもたない音楽に関心をもってもらいたいといった文章が挿入されていることである。デュボワ氏は自身で「Medita Music(メディタ・ミュージック)」(以下、MMと略す)と命名した曲をつくっていて、MMは、「作曲する側の「曲展開」などの意図や効果を取り払って、聴く側の感性で自由に音の空間を漂うことができる音楽」と定義している。MMは、「心を無にしたり、瞑想したりする際に最も効果的な音楽性を備えつつ、しかし、その音楽が一般に備えがちな宗教性をもたない楽曲」であるという。


デュボワ氏はMMのような音楽を読者自ら作曲してほしいらしく、本書は、その前段階として、常識的な音楽の定理、法則を解説しているのである。ポピュラー音楽やジャズの音楽理論の基礎となるバークリー・メソッドの初歩的な概説書といってもよいものだが、その目的はその先にあるということである。


本書の出版にあわせてアルバム『Gunung Kawi』がつくられ、本書内で紹介されているサイトでその曲を聴くことができる。マリンバやバリのガムラン他を使用した楽曲は、アフリカやアジア(ここではバリ)の民族音楽のようであり、曲のなかにメロディーラインは一切登場しない。デュボワ氏によれば、MMはポピュラー音楽のような心地よい和音は登場しないことで、通常音楽に抱く期待が満たされないことに気づくと、人の脳は別のモードに切り替わり始めるといっている。そのとき、人は今ここにある音環境を受け入れ始め、深いリラックスモードをつくりだすのだという。


MMを聴いて感じたことは、テレビ、ラジオから大量に流れる音楽は実は特殊な音楽である、ということをいつのまにか忘れてしまっているという怖さである。デュボワ氏は、本書でむしろ音楽初心者に作曲を勧めたいという。曲作りによってエスプリ(精神)を開くきっかけにしてほしいというのである。誰でも絵を描くように、作曲を特殊な技能ととらえるのはやめてもらいたい、と本書はいいたいようである。


by kurarc | 2021-07-25 22:06