川北稔氏 二つの講義本

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ウォーラーステインの著書『近代世界システム』の訳者として知られる川北稔氏の二つの講義本、『世界史システム論講義 ヨーロッパと近代世界』(ちくま学芸文庫)、及び『イギリス近代史講義』(講談社現代新書)を読了。この2冊は視点が異なるとはいえ、コロンブス以後(からベトナム戦争後のアメリカまで)の欧米世界をとらえる見方、世界システム論をベースにした歴史学、社会学の入門書といった内容である。


川北氏は、若い世代では歴史を学ぶことを遠ざける傾向にあることから、なるべく歴史学をおもしろいものにしようと努力されている方である。『砂糖の世界史』の著書のように、「もの」(この「砂糖」のような商品を英語で”staple”(この場合、世界商品と訳される)と表される)に焦点をあて、世界システム論を論じたり、あるいは、上記2冊においては、「都市」や「風俗」、「家族」ほかをはじめ、具体的な事物を歴史学、社会学のなかに取り入れ著されており、大変読みやすい著書になっている。


たとえば、『イギリス近代史講義』のなかに、「社交庭園 pleasure garden」という場で行われるイギリスの上流階級の社交についてふれられていた。イギリスでは16世紀後半あたりから、都市の上流階級と農村の上流階級がロンドンで交流する社交会が開かれるようになった。その交流の場として、「社交庭園」がつくられたという。ロンドンのヴィクソール、ラニラなどに社交庭園があり、散歩道、遊歩道がつくられ、大木が植えられ、池、あずまやをつくり、レストランのようなものもつくられた。こうした庭園で、上流の人々は馬車でやってきて、そぞろ歩きをした。つまり、遊歩することが目的であり、それは、都会で初めて成立する文化であった。(こうした交流により、ロンドンの流行が地方へも拡散し、消費社会が加速化された)


18世紀になると、ロンドン郊外にも社交庭園はつくられ、ネオ・パラディアン様式の都市として有名なバースは社交専門の都市として整備された場であったことを本書で初めて知った。バースはわたしもイギリスを訪れると必ず立ち寄る都市であったが、こうした背景があったことを初めて気づかされた。


『世界システム論講義』のなかでは、興味深いエピソードが描かれていた。1851年に開催されたロンドン万国博時に行われた技術コンクールで、圧倒的にイギリスのものの入選が多かったなかで、アメリカからピストルとミシンが入選したというのである。イギリスは当時、安価な労働力をアイルランド移民などから補っていて、労働節約的技術への関心が少なかった。それに比べ、アメリカは労働力不足に悩まされていたこともあり、ミシンのような技術を生み出す必要性に迫られていたのである。そして、万国博の20年後には、イギリスは製造業の分野でアメリカやドイツに凌駕され、ヘゲモニー国家から退いていくことになる。


以上のようなエピソードを含めながら語られる歴史学書であるため、気がつくといつのまにか読了してしまっているような内容の2冊である。ウォーラーステインの著書『近代世界システム』は大冊であり、なかなか読む気にはなれないが、川北氏の著書を通じて、その一端をつかむことができそうである。


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by kurarc | 2021-07-31 15:35 | books(本(文庫・新書)・メディア)