国立競技場のユニバーサルデザイン

国立競技場のユニバーサルデザイン_b0074416_22373277.jpg
国立競技場のユニバーサルデザイン_b0074416_22381066.jpg


新型コロナのこともあり、オリンピックに関する議論がかなりジャーナリスティックに扱われている。そうなる状況はよく理解できるが、この時点で少し頭を冷やしてこの競技場で試みられたユニバーサルデザイン(以下、UDと記す)についてチェックしておきたい。その理由は、この競技場が世界最高水準のUDを目指して設計されたからである。


東洋大の助手時代にお世話なった高橋儀平先生がこのUDのアドバイザーを務め、その取材記事が日本建築学会の月刊誌『建築雑誌』(2020年7月号)に掲載されている。その中から、わたしも初めて知る施設(特にトイレ周りの施設)についてメモしておく。


まず、当初のザハ・ハディット案において、車椅子座席数は、全体の0.17%しかなかったという。国際パラリンピック委員会(IPC)基準では最低0.75%としており、再設計時に改めて目標を定め、検討しなおしたらしい。国立競技場では、最低限2人の車椅子使用者と同伴者が一緒に観戦ができるように設計されている。(上写真のように、末端の座席では車椅子が2台並ぶスペースは確保されていないようである。一般的な車椅子用スペースは、車椅子が2台並び、その両側に同伴者用の固定座席が配置されている)高橋先生は、同伴者席は固定としたが、席を取り外し可能にした仕様の方がよかったかもしれないと述べている。車椅子同士だけで来場するような場合、車椅子の座席を増やせるからである。


また、国立競技場では、カームダウン・クールダウン室が整備されているという。こうした室については初めて知ったが、このスペースは、知的・精神・発達障害の人が観客の多さにパニックを起こした際、その予防のために気持ちを落ち着かせるための休憩室としての機能をもつもの。


さらに、わたしが初めて聞いたものでは、トランスジェンダーのためのオールジェンダー(男女共用)トイレ設置がある。多機能トイレは、ブースのなかに機能を詰め込みすぎずに、オストメイト対応トイレは単独に設けられ、オムツ交換の大型ベッドなどは別のブースに分けて設置されているようである。


以上のようなデザインは、障害者団体の要望を聞きながら実現していったという。まだ国立競技場内へ入ったことはないが、こうしたUDは今後のバリアフリーデザインの規範、基準になるのではないだろうか。カームダウン・クールダウン室のピクトグラムはJISになかったため、新たにデザインしたようで、こうした部分も見逃さないようにしなければならない。


*写真:日本財団パラリンピックサポートセンターFacebookより借用


by kurarc | 2021-08-11 22:29 | design(デザイン)