映画『アイダよ、何処へ?』をみる

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映画『アイダよ。何処へ?』をみる。原題はラテン語で、『QUO VADIS, AIDA?』。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の中で起きたスレプレニツァ事件(スレプレニツァの虐殺)をドキュメンタリータッチで描いた映画である。


ヨーロッパ南東のバルカン半島諸国は、多くの日本人にとって最も意識から遠い地域の一つにあたるのではないか。わたしもこの地域を旅したことはない。イタリアのトリエステまでは旅したから、もう一歩というところではあったが。スレプレニツァ事件は、1995年7月に起きた。被害者(ボシュニャク人(イスラム系))、加害者(セルビア人)、そして国連軍(オランダ人部隊)との混乱の中で約8000人ものボシュニャク人がセルビア人に殺害された。ハーグ国際刑事裁判所は、この事件をジェノサイトであったという判決をくだしている。


この映画は優れているのは、こうした悲劇を淡々と時系列に従って冷静に映画に定着させていることである。血なまぐさい事件であるが、そのことを大げさに強調することもなく、三者の立場の相違、齟齬、誤解、弁解・・・等をドキュメンタリーのように描いている。この映画をみていると、真に目の前で虐殺へのプロセスを俯瞰しているような錯覚に陥るほどであった。悲しい映画には違いないのだが、涙は流れ出るどころか、俳優たちの熱演に釘付けとなり、いつのまにか虐殺後の世界が現れ始め、映画は幕を閉じる。


わたしはこの事件をもちろん知らなかった。現代にもっとも近いジェノサイトであったといえると思うが、バルカンの世界について全く無知であったとしか言いようがない。この映画監督ヤスミラ・ジュバニッチ監督(女性監督)は、そうした無知の人間にもこの映画の提起した問題と感情を共有してもらいたい、という。


映画の編集は、ポーランドを代表する編集者ヤロスワフ・カミンスキが参加している。彼の参加した映画『イーダ』や『COLD WAR あの歌、2つの心』はみていて、優れた映画であったから、みる前から期待していたが、その期待をまったく裏切られることはなかった。久しぶりに映画らしい映画をみた、という実感である。


by kurarc | 2021-09-18 19:40 | cinema(映画)