映画『MINAMATA』をみる

よい映画の上映が続いている。今度は『MINAMATA』である。しかも、この日本で起きた公害問題の映画に、ジョニー・デップが関わり、出演するなど誰が予想しただろうか。
ジョニー・デップの演じた報道写真家W.ユージン・スミスは、妻であるアイリーンと共にこの水俣で起きた水俣病の取材のため、1971年から3年間、水俣に住んだ。この映画はその3年間での出来事を映画にしたものである。わたしはスミスが水俣を取材していたことを恥ずかしながら知らなかったが、2、3年前に読んだ伊藤俊治著『20世紀写真史』で強く印象に残っていた写真家で、この著書に掲載されていた「カントリー・ドクター」という写真がずっと気になっていた。伊藤氏によれば、スミスやマグナム・フォトのロバート・キャパのような戦前からグラフ・ジャーナリズム、つまり、『ライフ』のような雑誌に関わった写真家らは、グラフ・ジャーナリズムにおいて、撮影対象の選定や描写形式など方向を限定され、あらかじめ定められた写真を撮影するようなスタイルに限界を感じていた。特に、戦後、こうした制約から逃れようとした写真家のなかで、スミスはその代表的な写真家の一人であったといってよい。
水俣病の取材は、スミスにとって真に個人的な執着を優先させながらグラフ・ジャーナリズムを成立させようとした仕事であったに違いない。そして、当時もはやスミスもそう若くはなかった。もしかしたら大きな仕事はこれが最後になるかもしれないと薄々感じていたのではないだろうか。事実、1975年に出版された『MINAMATA』が遺作となるのである。
この映画は、そうしたスミスの生き様を中心に描かれた。驚いたことに、水俣病に関する裁判は2021年現在も続いていることをこの映画で知った。ラストシーンといってよいと思うが、スミスが水俣病関連の写真を撮影した中で、最も世界に衝撃を与えた写真「入浴する智子と母」の撮影シーンが再現されていた。このシーンをみるだけでもこの映画をみる価値がある。最近ブログに書いた重厚な映画『アイダよ、何処へ?』もそうであったが、今後もよい映画の上映が今秋は期待できそうである。
by kurarc | 2021-09-25 20:01 | cinema(映画)