ファーブル 「ダマスカスへの道」から

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およそ12年前、2010年8月26日のブログは、「林達夫の庭」という表題の記事だったが、思想家、評論家の林は、日本庭園が優れていることはわかるが、まったく心を惹かれることはないこと、むしろ、西洋庭園に心惹かれるという内容等々について書いた。林は自邸で手がける庭をガーデンではなく、アーボレータム(arboretum)という英語で表現していた。(林は「アーボレータム」と記しているが、発音は「アーボリータム」の方が近いと思う)ラテン語に影響を受けた言葉を勉強したものにはこちらの言葉がわかりやすいのだが、たとえば、ポルトガル語では、「木」は「arvore」である。アーボレータムとは研究用の庭(特に樹木園)の意味に近い。


『ファーブル昆虫記』の翻訳を手がけた林だから、ファーブルに影響を受けたと思われるが、ファーブル自身も当初は数学や物理学の道を歩んでいたが、コルシカ島へ物理の中学教師として赴任したことが、彼の転機となる。コルシカ島は壮大な自然景観をもつ緑の島であり、本土とは異なる植物や昆虫に富んでいた。そうした自然に浸り、ファーブルは幼い頃に親しんだ昆虫や植物への偏愛を再び心に取り戻すことになる。


コルシカでは、アヴィニョンの植物蒐集家ルキアンとトゥルーズ大学の博物学者モキャン・タンドンとの出会いも大きかった。さらに、ファーブルにとって「ダマスカスへの道」となったのは、レオン・デュフールの著作との出会いであった。デュフールは昆虫を生きたまま観察し、調べていたのである。従来の研究者は虫の標本をつくり、顕微鏡をつかい細々と分類していくような死体解剖の大家でしかなかったのである。(以上、『ファーブル記』、山田吉彦著参照)


こうしたことを書いたのは、最近、特に生物学(生態学)や博物学について興味をもつようになったからである。その中でも、ファーブルやダーウィンについては特に気になっている。ダーウィンの『種の起源』ほか、最新の進化論の研究について学び直している最中である。先日、井之頭公園の榎(エノキ)がオオムラサキという蝶の食樹であることなどについてこのブログで書いたが、現在、東京都でも生態系に配慮した緑化(庭づくり)が盛んに行われるようになった。こうした方向は、従来の美学を優先した日本庭園づくりとは大きく異なる。都市の緑化、庭づくりは現在、大きな転換点を迎えていると言える。


*「ダマスカスへの道」とは、キリスト教徒の方であれば既知の言葉だろう。キリスト教迫害者であったパウロが、ダマスカスへの道の途上で忽然と悟りをひらき、キリストの使徒となったことから、なにかの事件をきっかけに眼前の霧が拭い去られたように感じ、新しい展望がひらける様を言う。


by kurarc | 2022-01-17 21:41