『新南島風土記』(新川明著)再読

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実に36年ぶりに本書を読んだ。1985年、沖縄の建築事務所を退職し、1986年になり東京の設計事務所でアルバイトをしながら本書を読んでいたことを今でも鮮明に記憶している。わたしが手にしていたのは、大和書房刊行のものだが、今回、岩波現代文庫のものを購入し、改めて読んでみた。沖縄を代表する思想家といってよい新川明さんの文章は、人を本の内容に吸引してはなさないような名文であり、気がつくと読了していた。初めて読んだ時の本書の衝撃は大きく、読み返してもその衝撃の大きさはまったく変わらなかった。


本書は新川さんが沖縄タイムズの記者であった頃、沖縄タイムズに1964年8月から1965年9月まで連載された文章をまとめたものである。まだ復帰前の沖縄、それも八重山諸島の9つの島(残念ながら宮古島に関する記述はない)のルポと言えるものである。内容はそれぞれの島の歴史、民俗、芸能(とくに民謡)、宗教などである。沖縄を知るには、沖縄本島のみの歴史を学んでも意味がない。沖縄は先島諸島(八重山諸島など)との関係、さらに、日本本島と沖縄、先島諸島、さらに東アジア(大航海時代以後のヨーロッパ諸国を含む)、アメリカとの関係を見ていく中でその歴史が浮かび上がってくる地域である。本書では、こうした地域まですべてを俯瞰した内容ではないが、特に沖縄本島と八重山諸島との関係を中心として、沖縄世界を深く掘りさげた内容となっている。


たとえば、与那国島における人頭税軽減策としての人口を制限するため(他の説もある)に行った人升田(ひとうんぐだ)、久部良割り(くぶらばり)という手段、八重山諸島内での強制移住政策、西表島における炭鉱労働など八重山諸島における悲劇と言える出来事を、新川さんは冷静に淡々と語っていく。そして、そうした悲劇が民謡のなかに密かに織り込まれ、島民の間に引き継がれていることも探っていく。それとは別に、本書は八重山諸島の民俗学(人類学)に興味をもつものにとってよきテキストになっている。たとえば、竹富島のの由来について、6つの部落があり、その部落はそれぞれ屋久島、徳之島、久米島、沖縄本島、久間原、中筋という6組が集団移住して住みついたという由来を紹介している・・・etc.


*人頭税は、薩摩(島津)が琉球入りをした後、薩摩への貢租のために琉球政府が考案し、宮古、八重山諸島に実施した悪税制度である。


今年沖縄は日本復帰50年を記念する年となり、すでに様々なメディアで取り上げられているが、復帰のみを取り上げて話題にしても足りるものではない。今年は沖縄全体の歴史、少なくともグスク時代(古琉球)以後の歴史をヤマト(日本本土)の人々が学ぶ年にしなくてはならない。その中で、本書は沖縄理解を深める最も優れた著書の一つとなることは間違いないと思われる。


*岩波現代文庫の表紙の写真(新川明撮影)は、久部良割り(くぶらばり)が行われた岩の割れ目である。久部良割り(くぶらばり)とは、幅3メートル、高さ15メートルほどもある岩の割れ目を島の妊婦たちに飛び越えさせた。飛び越えられたものは生きられ、飛び越えられなかったものは死んだ。こうした手段で人口制限が行われたのである。


by kurarc | 2022-01-27 19:00 | 沖縄-Okinawa