『地政学入門』(曽村保信著、中公新書)を読む



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2、3年ほど前からポルトガルから沖縄までの海域史を復習していたが、現在、ウクライナの戦争がはじまったこともあり、「地政学」という視点で海(河川を含む)や大陸の関係を捉えなおす視点を視野に入れる必要がでてきたため、本書を手に取った。

本書は日本における地政学の古典的著作であり、初版は1984年。まだソ連が存在していた時代に著されている。読み始めると止まらなくなるほど興味深い洞察と先見性に満ちており、今まさに読まれるべき著作であると感じられた。全体は、地政学の開祖といわれるマッキンダー(イギリス)から始まり、ハウスホーファー(ドイツ)を取り上げ、アメリカの地政学(その背後にあるモンロー主義)から終章で核宇宙時代の地政学で締めくくっている。

第1章で取り上がられているマッキンダーの世界の捉え方を知っただけでも、現在起こっている戦争がいかなるものかという概略が理解できて、目からウロコが落ちるようであった。マッキンダーは、現在のロシアの領域をハートランドと位置づけ、それをとりまく大陸を内周の半月弧(Inner or Marginal Crescent)、さらにその外周を島嶼性の半月弧(Outer or Insular Crescent、日本を含む)と命名し、概念化した。

さらにマッキンダーの視点が興味深いのは、ユーラシア大陸やアフリカを巨大な島、世界島と捉え、たとえば西ヨーロッパを一つの半島のように捉える巨視的な視点である。そして、世界をシー・パワーとランド・パワーの国々に分類し、それらの関係から世界史を再読解しているような洞察を展開している。彼は西洋文明の発達とは内陸アジアからの衝撃、圧力に負うというような視点ももっていた。

これはマッキンダーが言っていることではないが、彼の製作した世界の概念図を眺めていると、恐ろしいことに、地球(特に北半球)の中心は現在のロシアという地域にみえてくるのである。マッキンダーはハートランドと呼んだその地域(現在のロシア)を、回転軸の地域(Pivot Area)とも呼んでおり、世界島に将来君臨するであろう巨大勢力を危惧するということまで言及していた。

以上は本書のごく一部を紹介したに過ぎないが、曽村氏はさらにマッキンダーが強調しなかった点で重要な視点は、海や大陸という視点だけでなく、河川型の文明という視点から現在のロシア(あるいはかつてのコサックの活動)を読み解くことであるとしている。ロシアを流れる河は日本の川と異なり、3000トン内外の艦船が往来できるということ、そうした艦船が外洋との海運へと連続できること、つまりロシアはランド・パワーとシー・パワー(広義に水運)の両方を兼ね備えられる稀有な国家であると言える。

本書を読むと、現在進行中の戦争は、ロシアが地政学を踏まえた周到な戦略であることが明確に理解できるのである。今後の世界情勢、また新たに起こるであろう紛争を予想するためにも、本書は必読の文献であり、再評価されるべき文献であると思われる。

by kurarc | 2022-04-03 19:55 | books(本(文庫・新書)・メディア)