コンラッド 『闇の奥』


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ジョウゼフ・コンラッドの『闇の奥』は昨年購入してからずっと積読状態であったが、ウクライナの紛争がはじまり、急に東欧圏の小説を読みたくなったため、今読まなくてはと思い、一気に読破した。確かコンラッドはポーランド出身ではなかったかと思っていたが、改めて調べてみると、出身は現ウクライナのルテニア生まれであった。詳しくはわたしの恩師である井上義夫先生の編訳になる『コンラッド短編集』の訳者解説を参照いただきたい。

ポルトガル、スペインからはじまる大航海時代と言われる流れのなかで、世界は結ばれ、世界はより小さく感じられるようになったが、それは海洋をわずかに点で結んだ程度に過ぎなかった。彼らは港を次から次へと移動していくが、その港の奥に広がる広大な大陸、たとえば、アフリカやアメリカ、インド、中国の大陸の奥地はその後、何百年も経過しなければわからなかったし、未だにそのすべてを知り、理解できているとは限らない。

コンラッドの『闇の奥』は、彼が船乗りとして実際に体験したコンゴ川での航海の経験を元に描かれた小説として知られている。主人公マーロウは、そのコンゴ川を遡行しながら、その奥地で象牙収奪に手腕を発揮するクルツを救出する役目をになわされる。クルツを知る誰もが彼のことを天才などと称えるが、その実態はいかなる人間なのか?この小説の興味深い点は、点としての航海から大陸という面への素描へと移行していくところである。そして、その大陸の奥にはいったいどのような世界が横たわっているのか・・・

この小説は、私見では遡行していく描写よりも、遡行しながら事件に遭遇する心理描写により重心を置いているように感じられた。さらに、わたしが感じたのは、アフリカという広大な大陸より、その広大さ以上の深い心の闇、時代の闇の方であった。

この小説の最後に展開されるマーロウとクルツの婚約者との会話(嘘)は、この小説をオープン・エンドとして終止させようとしたコンラッドの意図なのか?わたしは、このラストの嘘に、ある意味で現代性のようなものを感じ、19世紀転換期に書かれたこの小説を21世紀にまで生き延びさせることができた粋な結末として評価したいと思っている。

コンラッドは、現在最も読まれるべき作家の一人であることをこの小説で確信できた。



by kurarc | 2022-05-24 23:32 | books(本(文庫・新書)・メディア)