バークリー・メソッドの再学習

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今年の4月26日にこのブログで、ジャズ理論の再学習といった内容にふれた。ここでのジャズ理論とはバークリー・メソッドを主な射程としていたが、およそ2ヶ月の間、様々な入門書の類を読んだり、再読したりしたが、最も学習しやすかった文献は、菊地成孔氏と大谷能生氏による『憂鬱と官能を教えた学校 ー バークリー・メソッドによって俯瞰される20世紀商業音楽史』(上下、河出文庫)であった。

本書は再読であったが、今回はかなり時間をかけて丁寧に読み込んでいった。本書が映画美学校で行われた講義録であることから、音楽理論の初心者でもわかりやすく解説されていること、さらに、菊地氏がこのバークリー・メソッドについて相対化した視点(タイトルにあるように俯瞰した視点)で解説してくれている点がよい。つまり、菊地氏はこのメソッドが優れていることを認めながらも、あくまで戦後のアメリカで生まれた一つの理論であることと、今後、新たな理論が出現するであろうことを予見させるような内容も含みながらの講義である点が優れていると思われた。

現在、私たちは知らず知らずのうちにコード進行だの、テンションだのといった音楽用語になじんでいるが、そうした用語はこのバークリー・メソッドによるものなのであり、巷で流れるポピュラー音楽の大半は、このメソッドを習熟したアレンジャーらの手によって音楽が制作され、我々に届けられているのである。わたしは音楽の専門家ではないが、趣味で音楽を楽しむためにも、このメソッドをある程度習得したいし、ジャズを含むポピュラー音楽を鑑賞する上においても、このメソッドを習得することで音楽の理解が深められると思われるため、以前からずっと注目していたのである。(この理論を初めて学んだのは20歳の頃(1981年頃)であった。本書で菊地氏がこのメソッドを学び始めたのは1983年とあるから、彼よりも早く学ぼうとしていたことになる。しかし、以前にも書いたように、挫折することになる。)

本書によって、G7という増4度のコードからC△7へと解決されるドミナント・モーションから出発し、裏コード、セコンダリー・ドミナント、テンション、ダイヤトニックからノン・ダイヤトニック、コードとモードの音楽、新たなコーダル・モーダルな音楽といった基本的な概念が理解できたし、西洋の音楽が和声を重要視しながら発展してきたこと、よって、メソッドでは機能和声が重要になること、リズム(律動)、ポリリズムの理解、さらにカウンター・バークリーとしてのリディアン・クロマチック・コンセプトが平易な語りで解説され、こうした解説の合間に、ポピュラー音楽に限らず、クラシック音楽や民族音楽(特にブルース(ブルーズ)の重要性)などの紹介も交えられ、菊地氏や大谷氏の並並ならぬ音楽への造詣の深さを垣間見ることになった。

特に興味深かったのは、ドミナント・モーションのような和声の進行は、音楽に生命のような(人工生命?)運動性を与えるということである。一度、ある和声が提示されたとすると、そこから無限の展開が導き出され、音楽は終わりのない運動を続けることが可能だということである。しかし、音楽を無限に演奏し続けることはできないから、人間はそれをエレガントに終止するために様々な仕掛けを目論んでいくことになるわけだが、そこで有効なのが、バークリー・メソッドということになる。

本書のねらいは、単なるメソッドの解説ではない。大きくは平均律以前、以後(バッハ以前と以後)の音楽の根源にまで遡り音楽を俯瞰しようとしていることである。本書によってますます音楽に興味が湧いてきたし、さらに21世紀の音楽、ポスト・バークリー・メソッドの可能性などについて学習したくなってきた。(本書の続編となる『東京大学のアルバート・アイラー』へ学習を進めたい。)


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by kurarc | 2022-06-25 23:24 | music(音楽)