成瀬巳喜男の映画 『浮雲』と『乱れる』

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熱波が続いていることもあり、今日はゆっくり映画でも観ようかと、成瀬巳喜男監督の2作品、『浮雲』(上写真)と『乱れる』(下写真)を選択した。成瀬監督を選択したのは、最近、図書館から借りてきた塩田明彦監督による著書『映画術 その演出はなぜ心をつかむのか』に成瀬監督の『乱れる』が取り上げられていたためで、以前観た『浮雲』を含めて観直したいと思ったからである。

塩田監督の著書を借りたのは、映画の鑑賞の仕方の幅を広げたいこと、また、音楽と同様、映画を学ぶということを怠っていたいこともあり、最近、映画鑑賞の領域を広げていくことに行き詰まっていた。塩田監督の著書がその助けとなりそうだと思ったため借りてきたのである。

まず、この2つの映画には釘付けにされた。シーンは特別凝っている訳ではないと思うが、まったく退屈することもないのは、スタジオとロケ地での撮影のバランスの良さや、2つの作品に登場する高峰秀子の演技のうまさによることもあるが、観終わってから、早速、塩田監督の著書で『乱れる』がどのように分析されているのかに目を通した。

塩田監督は、映画『乱れる』を「動線」という視点から解析していた。塩田監督は、まず「動線」を映画の中で人物をどのように動かすのかということだと説明する。これは映画の最も根本の作業だという。つまり、セット、ロケ地という空間の中で人をどのように動かすのか、動かすことができるのかをまず考えるのだという。まず、そういった視点でわたしは映画を観ることができていなかったことに気づかされた。こうした視点から塩田監督は、この映画で重要となる空間上のエレメント(この映画では「橋」)を取り上げ解説してくれている。詳しくは著書と映画を観ていただきたい。

この2つの映画はちょうどわたしの幼い頃とほぼ同時代の風景が登場し、なつかしさもあるし、成瀬監督のセットやロケ地に対するこだわりのよくわかる映画となっている。溝口健二監督もよいが、成瀬監督の映画の丁寧なつくりも改めて感心した。反省すべきは、わたしの生きてきた世界の原点のような空間を感じさせてくれる成瀬作品をあまり観ていなかった点である。まだ観ていない成瀬監督の作品を鑑賞し、さらに塩田監督の著書を参考にしながら映画の鑑賞の幅を広げていくことにしたい。これで少しは映画を観ることへの新鮮な感情を取り戻すことができそうである。

*塩田監督は以下の7つの視点(テーマ)で様々な映画を分析している。

1)動線 2)顔 3)視線と表情 4)動き 5)古典ハリウッド映画 6)音楽 7)ジョン・カサヴェテスと神代辰巳

*これは私見だが、『浮雲』の映画成立の背景には、溝口の『西鶴一代女』があるのではないか?それは偶然かもしれないが、戦後の女性像への新たな構築として。



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by kurarc | 2022-07-03 20:14 | cinema(映画)