リスボンのデレク・ベイリー


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リスボンに在住していた1999年の5月、リスボンのカモンイス広場近くにあるサン・ルイス市立劇場で、即興演奏を特集した演奏会が催された。わたしは以前から聴きたいと思っていたギタリスト、デレク・ベイリー(1930-2005、上写真)が出演するということもあり、出かけることにした。その頃つけていたメモ帳のような日記帳には、その時のチケットが貼り付けられていて、5月1日の21時30分からコンサートが始まったことがわかる。チケット代は当時1500エスクード。エスクードはユーロになる前のポルトガルの通貨で、日本円にするとおよそ900円程度(当時)だろうか。リスボンで催されるコンサートは日本に比べてリーズナブルな価格のものが多く、東京より文化程度は高いのではと住みながら感じていた。

楽しみにしていたベイリーのコンサートは、当時のわたしには残念ながら受け入れがたい内容の音楽で、コンサートに行ったことを後悔するハメになった。それから、特に即興演奏にこだわった音楽を聴くことはなくなった。あれから20年以上経つが、現在、菊地成孔+大谷能生共著の『東京大学のアルバート・アイラー 東大ジャズ講義録・キーワード編』の終盤に差し掛かっているが、この本の中にベイリーが登場した。

この本の中で、ベイリーは即興演奏のパイオニアのように扱われている。ベイリーは自らの演奏のコンセプトを「ノン・イディオマティック・インプロヴィゼーション」と名付けているようだ。この場合、イディオムとは音楽固有の形式、語法などを確認できるような表現のコア(菊地)といった意味合いであるという。つまり、そうした表現を想起させないような即興演奏を行なうことがベイリーの演奏形態なのである。

You tubeなどでベイリーの音楽を聴くことができるが、いくらコンセプトが斬新で革命的であっても、やはり彼の音楽は今でも受け入れがたい。しかし、一方でそうしたわたしの感覚は現代のポピュラー音楽にすっかり洗脳されてしまっていると言えるのかもしれない。実はそうした音楽への感覚を一度消去して、音楽を捉え直したいという衝動から、ここ最近いろいろな音楽関連の書物を渉猟しているところである。ベイリーの音楽を一方的に排除しようとしていた自分をもう一度疑い、ベイリーが著した書物などにも目を通したいと改めて思っている。『東京大学・・・』によって、ベイリーに再会でき、もう一度、即興演奏を学び直すよい機会を与えられたように思う。

*ベイリーは2005年に亡くなっている。今から思うと、最晩年のコンサートであったと思われる。リスボンでのコンサートを聴けたことは貴重な体験であったのかもしれない。

by kurarc | 2022-07-06 23:04 | music(音楽)