映画『リスボンに誘われて』


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海外には当分行けそうもないから、映画でも観て、その欲望を満たすしかないが、特にかつて住んだ海外の都市リスボンに対する郷愁は周期的に襲ってくる。リスボンを舞台とした映画は数多くあるが、最近ではこの『リスボンに誘われて』が、娯楽映画としては優れているように思う。名作『ペレ』を撮影した監督ピレ・アウグストの仕事であり、さらにこの映画に配置された俳優陣が適役なのである。この映画を観るのは2度目となる。

原作はパスカル・メルシエの『リスボンへの夜行列車』であるというが、原作の方はまだ読んだことはない。この映画は、リスボンだけでなく、前半にスイスの首都ベルンが舞台として登場する。スイスではわたしが最も再訪したい都市である。ベルンはアーレ川に囲まれるように旧市街がそびえるが、そのアーレ川には遊歩道があり、そこを歩きながら眺められるベルンの旧市街は美しく、忘れがたい。リスボンを舞台とした映画で最も知られた『白い町で』でも、スイスとポルトガルが対比して描かれているが、お互い対比することで都市の様相の違いが明確になり、音楽で言えば転調したような機能を果たしているように思う。

この映画『リスボンに誘われて』は、ポルトガルにおける独裁体制(1926年から1974年まで)について少し知識がないとわかりづらいが、知らなくても映画の進行とともにそうした政治的背景があることは自ずと理解できると思う。主役のジェレミー・アイアンズはすでに先の見え始めた中年役には適役であり、その他、ブルーノ・ガンツ、シャーロット・ランプリングなど名優が数多く出演し、名演技を楽しませてくれる。

ポルトガルでは1974年まで独裁政権が維持されたため、日本でいう戦後は、1974年以後といった感覚になる。つまり、日本に比べて戦後は20年近く遅れていて、わたしのような世代でも、独裁政権に苦しめられた経験を持つだろうし、植民地で幼少期を過ごした経験をもつものもいたのである。独裁政権に加担した世代とそれを打倒しようとした世代は現在でもその過去を背負い、記憶も新しい。それは隣国スペインでも同様であり、スペイン映画『エル・スール』にはその時代を生きた世代の内面的苦悩が見事に描かれている。

リスボンをよく知ったものには、映画で登場する舞台はどこであるのかはほぼわかり、郷愁は十分満たされることになる。そしてこの映画では、リスボンのランドスケープをうまく引き出してくれているから、この映画を観たものはリスボンという都市に興味を持つようになるのではないだろうか。リスボン(リスボン近郊)を舞台とした最近の映画では『イマジン』、『ポルトガル、夏の終わり』も名画であり、お薦めできる。

それにしても、いつになったらまたリスボンを再訪することができるのだろうか。



by kurarc | 2022-07-19 21:50 | cinema(映画)