『森と木と建築の日本史』(海野聡著)を読む

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森と木を主要なモチーフとして日本建築史を語るという優れた著書である。海野氏はまだ30代の研究者であり、相当優秀な方なのだろう。

日本建築を鑑賞する場合、西洋建築においても同様だが、様式という視点で鑑賞してしまうという習慣がある。そのことも重要だが、実はその様式を成立させている建築を構成する素材にまで遡求すべきなのである。本書では、古代から現代まで、日本建築に使用された木材を丹念に調べ、その木材がどのように調達され、調達するために森とどのように関わったのか、また、その木材を運搬するためにどのような方法があり、どのような経路をたどったのかetc.といった変遷を詳しく記述している。

様々な興味深いエピソードが含まれていたが、まずはその一つ、古代の日本建築は巨大であったから、巻斗(肘木を支える部材)に木口斗(こぐちます)といって、外側に年輪が見えるよう組まれているのだという。木材の繊維方向を壁と垂直にすることによって、割れにくくする工夫らしい。(本書に図版あり)

また、巨材を山からソリで運ぶ時に、その引綱に麻と女性の髪を編み込んだ毛綱が用いられたという。女性の髪を編み込むことによって、相当強度が増すのだという。こうした素材が生まれたのは、女性で金銭的な寄進ができない場合、黒髪を再建の志として差し出したという背景があったとのこと。(本書に写真あり)

さらに信じられないようなエピソードも紹介されていた。巨木を運搬するため、船底の栓を抜いて船を海に一度沈めて、満潮時に巨木を船に運び、改めて干潮時に船底の栓をして船内の水を抜き巨木を積載したという。積載方法にも相当の苦労があったことがわかるし、その他、海運(船)と木材運搬との関連などについても多くふれられている。

以上のような興味深いエピソードが数多く紹介されているが、わたしがもっとも感心したのは、本書で、琉球の木材経営を知ることができる『林政八書』が紹介されていたことである。「・・・の日本史」という類の本では、まず沖縄(琉球)が含まれていないことが多いが、本書では、琉球までも射程に入れたことは特出すべきであると思った。

日本建築史への新たな視点を発見できる海野氏の他の著書も読んでみたくなった。今後の活躍が楽しみな日本建築史の研究者の一人であることは間違いなさそうである。





by kurarc | 2022-08-02 21:30 | books(本(文庫・新書)・メディア)