映画『星の子』


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著名な評論家MがYou tube内でカルト映画をいくつか解説していた。その中の一つがこの『星の子』であった。元首相の事件と新興宗教団体との関連など最近はメディアが騒がしいが、そうした状況もありタイムリーだと思い、この映画を観ることにした。

新興宗教に関連した映画ということで、何か痛々しい場面が登場するのでは、あるいは血生臭い場面もあるのではなどと勝手に想像していたが、そうしたシーンはほぼなく、新興宗教に毒された両親とその娘の生活が淡々と描写されていく映画であった。

ここでは、新興宗教に毒された両親や娘の悲劇といった内容は描かれておらず(芦田演じる娘の姉は家出をするが)、むしろその逆で、大きなことは何も起こらない。娘を演じた芦田愛菜さんは内面に葛藤を感じながらも、それを爆発させるほどのこともない。大森立嗣監督の狙い(もちろん、原作もそのように描かれていたのだろう)はその平穏さを描くことにあったのではと思われる。ここでは、新興宗教にハマってしまった両親を糾弾するようなことは描かれていない。そして、その娘も親を責めたりはしない。

娘はこうした両親と共存していくことを選択するし、どこかで信じているのである。この映画が興味深いのは、善悪のような判断を持ち込まなかったことだろう。元首相の事件を知った後では、この映画の結論は現在、少し甘いのでは捉えられるかもしれない。この映画では、別の問題、つまり家族を扱っているのである。もちろん、Y容疑者のように家族が悲劇を迎えることもあるだろう。一方、この映画のように何事もなく日常が過ぎていくこともあるのだろう。

映画を観ると、必ず想像するのは、どのようなラストシーンを迎えるのかだが、この映画も予想をはるかに裏切られた。この映画のラストシーンは悲劇で終わるようなものではなかった。わたしは、ある意味で恐ろしいラストと考えたが、それも鑑賞者次第、意見の分かれるところだろう。



by kurarc | 2022-08-03 21:57 | cinema(映画)