2000年以降のジャズ




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新しい音楽を開拓するのは歳をとるとなかなか困難になるが、最近、特に気になっていたのは2000年以降のジャズについてであった。1990年代、ジャズという音楽が一時力を失っているように感じて、2000年以降、熱心に聴かないことが多かった。ここ数年、新たにジャズを楽しみたいし、学習したくなり(理論としても)、このお盆休み、一日を新たなジャズを開拓する時間として費やすことにした。

まず、ロバート・グラスパー(p)から聴き始めたが、その後、彼と共演するクリス・デイブ(per)へ、アデル(vo)やエスペランサ・スポルディング(b)といった優れた女性ミュージシャンへとつながっていった。クリス・デイブのドラムは宇多田ヒカルの『初恋』で知っていたが、改めて優れたドラマーであることを実感した。宇多田ヒカルの「誓い」という曲の中でのドラムは特によく、この曲はポリリズムを内包した曲だが、そのリズムへの理解がはっきりとわかる演奏なのである。

ロバート・グラスパーやエスペランサ・スポルディングの曲の中で特に興味深かったのは、スタンダードになった曲の演奏である。グラスパーであれば、ハービー・ハンコックの「Mayden Voyage」、スポルディングであれば、コルトレーンの「Afro Blue」といったスタンダードナンバーを再解釈、再構築するようなやり方で演奏していて、スタンダード曲への敬意のようなものとともに、こうした古典を乗り越えようとする意欲を感じた。また、グラスパーはレディオ・ヘッドからの影響があること、スポルディングでは、ブラジル音楽、特にジスモンチらブラジル・ミュージシャンからの影響を受けていることは興味深かった。

ジャズからは離れるが、ブラジルといえば、Raphael Rabello(ラファエル・ラべロ)というギタリストを遅ればせながら発見した。ブラジル音楽を知るギタリスト、クラシック・ギタリストの中では伝説となっているギタリストのようで、You tube上でもいくつかの優れた演奏を聴くことができる。彼が驚くのは、ブラジル・ギタリストには珍しくスパニッシュ・ギター(フラメンコ・ギター)の技術を身に付けていることである。ジョビンの曲を信じられないくらいのコードワークで演奏している様をYou tube上で聴くことができるので、ブラジル音楽好きには必聴であろう。

こうした新しい演奏の出会い、旅はYou tube上で行なったが、最も大きな収穫であったのは、以前から聴いてはいたが、カート・ローゼンウィンケル(g)が、最も注目すべきギタリストであるという再発見である。特に興味深かったのは、マトジーニョス・ジャズ・オーケストラ(OJM)との共演(CDは上写真)である。マトジーニョスとはポルトガルのポルト近郊の漁港の街であり、我々のような建築を専門とする人間にとっては、シザ・ヴィエイラ(ポルトガルの建築家の巨匠)の「レサのスイミングプール」と呼ばれる名建築があること(わたしはシザの仕事の中でこれがもっとも好きである)で知られている。この街にこうしたジャズ・オーケストラがあることは初めて知ったが、カート・ローゼンウィンケルが曲をつくり、このオーケストラと長時間リハーサルを行った上で、素晴らしい共演を聴かせてくれている。特に「Turns」という曲は素晴らしい演奏で、You tube上での映像も美しい。

わたしより10〜20歳若いミュージシャンらのジャズはわたしがイメージするジャズとはまったく異なる。ニコラス・ペイトン(tp)のように、「ジャズはプレイしない」というジャズメンも現れた。つまり、ジャズはある意味で終わり、新たなニューオリンズのミュージシャンであるという自覚から出発しているのである。彼はトランペット奏者でありながら、ボーカル、作詞、キーボード、ドラムほかをこなすミュージシャンでもある。2つ以上の楽器をこなすミュージシャンも普通になってきた。上記のジャズメンらはほんの一握りに過ぎないが、今ジャズは脱皮の時代を迎えたように感じた。今後、若い世代がどのような脱皮を繰り返し、新しい音楽を構築していくのか、目が離せない。

以上のような音楽への旅には、『Jazz The New Chapter』(監修 柳樂光隆、シンコーミュージック・ムック)が役に立った。

by kurarc | 2022-08-16 10:49 | music(音楽)