硬派な建築評論を出版し続けている松葉氏の集合住宅に関する著書を拝読した。
結論から言うと、松葉氏が、いわゆる非装飾の「モダニズム」、「即物的」なデザインの集合住宅を評価するのではなく、ウィーンの「カール・マルクス・ホーフ」やアムステルダム派による表情豊かな集合住宅を評価していることに興味を持った。
さらに、そうした集合住宅を成立させている背景を重要視する姿勢についてもである。それは特に、20世紀に日本の建築家たちがヨーロッパ最新の集合住宅のスタイルを真似て、その理念を学習することを怠ったことを痛烈に批判している。
職住近接を目指したイギリスの田園都市運動が、日本では「田園調布」のような不動産経営によるなれの果ての街と化したことについて、建築家の中條精一郎(中條の長女は宮本百合子)の言葉を借りて苦言を呈している。中條はちょうど、イギリスの田園都市運動がまさに勃興した頃、ケンブリッジ大学に留学し、その理念に深く共感していたこともあり、日本の惨状をいち早く感じていたのである。
この書物は、一般向けとは言えない。近代建築史をある程度読みこなしているものでないと、読み説くことはできないだろう。ドイツにおけるワイマール共和国時代の集合住宅を想像しろ、と言われた時、一体どの程度の人がそのものを思い浮かべることができるだろうか?また、アムステルダム派の建築についても。しかし、かつて、わたしはここに出てくる主な集合住宅は見学したが、こうした集合住宅の歴史がが日本人の常識となってくれることを願わずにはいられない。
そうした意味では、この本を一般の方々にも是非読んでもらいたいものである。以前から言うように、日本のマンションなどは「集合住宅」と言えるようなものではないのである。
# by kurarc | 2017-09-24 20:28 | books