『集合住宅ー20世紀のユートピア』(松葉一清著、ちくま新書)通読

硬派な建築評論を出版し続けている松葉氏の集合住宅に関する著書を拝読した。

結論から言うと、松葉氏が、いわゆる非装飾の「モダニズム」、「即物的」なデザインの集合住宅を評価するのではなく、ウィーンの「カール・マルクス・ホーフ」やアムステルダム派による表情豊かな集合住宅を評価していることに興味を持った。

さらに、そうした集合住宅を成立させている背景を重要視する姿勢についてもである。それは特に、20世紀に日本の建築家たちがヨーロッパ最新の集合住宅のスタイルを真似て、その理念を学習することを怠ったことを痛烈に批判している。

職住近接を目指したイギリスの田園都市運動が、日本では「田園調布」のような不動産経営によるなれの果ての街と化したことについて、建築家の中條精一郎(中條の長女は宮本百合子)の言葉を借りて苦言を呈している。中條はちょうど、イギリスの田園都市運動がまさに勃興した頃、ケンブリッジ大学に留学し、その理念に深く共感していたこともあり、日本の惨状をいち早く感じていたのである。

この書物は、一般向けとは言えない。近代建築史をある程度読みこなしているものでないと、読み説くことはできないだろう。ドイツにおけるワイマール共和国時代の集合住宅を想像しろ、と言われた時、一体どの程度の人がそのものを思い浮かべることができるだろうか?また、アムステルダム派の建築についても。しかし、かつて、わたしはここに出てくる主な集合住宅は見学したが、こうした集合住宅の歴史がが日本人の常識となってくれることを願わずにはいられない。

そうした意味では、この本を一般の方々にも是非読んでもらいたいものである。以前から言うように、日本のマンションなどは「集合住宅」と言えるようなものではないのである。

# by kurarc | 2017-09-24 20:28 | books

2018年秋 パリで伊藤若冲展開催

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2018年秋、パリのプティ・パレ美術館で、日仏友好160周年を記念した「ジャポニズム2018」にちなんで、伊藤若冲の大規模な展覧会が開催されるという。  

最近、特にこうした日本の画家や詩人、文人などの世界が気になるようになった。わたしは基本的には日本の芸術に特別に興味を持ったことがない。23歳の時に初めて海外の芸術に直接触れ、その衝撃的と言える緻密な芸術(建築を含む)に圧倒され、その世界から抜け出せずにいた。

しかし、欧米の芸術全般を知れば知るほど、日本の芸術が逆照射されるように感じられ、最近、興味を持つようになった。その一人に、伊藤若冲がいる。

彼の絵に興味を持つのは、まず、花鳥画を数多く残していることが挙げられる。野鳥の観察をするようになったこともあるが、「鶏の画家」と言われるほど多くの鶏を描いていることにも惹かれるし、その他の動植物の絵の「神気」にはただならぬ力が感じられる。また、桝目描きのような、現代のデジタルアートにつながるような斬新な絵にも魅力を感じる。

こうした天才と言えるような画家も、生まれは青物商の出であり、ブルジョアではあったが、何をやってもダメな子供だったのだという。それが20代後半から絵の道を志し、その10年後には立派な画家に成長したというから不思議である。

若冲の絵を近いうちにまとめて観たいが、来年の秋にパリに行くのが手っ取り早いのかもしれない。



# by kurarc | 2017-09-18 13:18 | art

タウトの日記データベース化 長期休暇中

建築家ブルーノ・タウトが日本滞在時(1933〜1936年)に残した日記をデータベース化する試みは、現在、長期休暇中である。全くのボランティアとして始めたものだが、始めてみるとかなりの時間が必要になることがわかった。大学院生の時代に、すでに半分程度は入力したデータはあるのだが、それは当時(1990年)の5インチのフローピーディスクに保存されたままである。MS-DOS時代のデータであり、このデータを開くPCもソフトも今はすでにない。

大型書店で建築書籍のコーナーをのぞくと、相変わらずタウトに関する書籍は増え続けている。それはむしろ建築畑の人よりも、ドイツ文学などを専門とする方々の研究成果が多い気がする。タウトを企画した展覧会も数年に一度は開催されている。未だに日本におけるタウトのファンは数多いことがわかる。

このデータベース化に快諾していただいた岩波書店には大変申し訳ないのだが、あと2年近くかかるかもしれない。ちょうどその年、わたしはタウトがイスタンブールで亡くなった年齢と重なる。タウトが考えたことも、同じ歳に近づくにつれ、昔以上に理解し安くなったように思う。

とにかく、データベース化完了の目標を2018年中に定めてコツコツと進めたいと思う。

*現在、立ち上げたブログ自体にアクセスすることができない状況。どうも、エキサイトブログでは、いつのまにか二つのブログを持つことが不可能になってしまったようだ。最悪の場合、また新たにブログサービスを提供する企業を探し、ブログのデータを移行することから始めなければならないかもしれない。(この問題は解決できた。2017/09/25)

# by kurarc | 2017-09-17 09:52 | architects

「カテナリア・テーブル」 復活への道を探す

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2010年に天童木工から発売されたカテナリア(ガラステーブル)。2015年に販売が中止されてから早2年が過ぎた。

昨日は協働デザイナーのT氏と打ち合わせ。天童木工で商品化されたテーブルの欠点などを議論し、できれば、若干ディテールを変更し、なるべくコストを抑えたテーブルとして蘇らせることができれば等々、を話し合う。

まずは、合板の技術を持つ企業、かつ、商品として販売してくれる企業を探すことから始めなければならない。

コントラクトとして製作することには問題ないが、なかなかその企業の商品として販売してくれるような企業を探すことは困難が予想される。どのような小さなものでも、商品には必ずリスクがある。そうしたリスクまで引き受けてくれる企業は存在するのだろうか?

それにしても、2008年、審査会場であった新宿OZONEの会場に試作品のテーブルが並んだとき(上写真)の感動は忘れられない。私たちがデザインしたものだが、「わたしという個人のデザイン」をすでに超えて、「もの」として堂々と自立していたのである。それは、自分の子供が立派に成人を迎えた時のような感動に近いものだと思う。

デザインとは、自分が他者になっていくことを、「もの」を通じて知ることである。

# by kurarc | 2017-09-15 15:35 | catenaria-ガラステーブル

虎ノ門ヒルズ

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都心には超高層ビルが相次いで建設されている。わたしは特に興味を持ってはいないが、超高層ビルを建設するのであれば、その周辺に広大な公園や緑地、空地を設けるべきであると思う。そのような緑地を配した超高層ビルの中に、虎ノ門ヒルズがある。

2階裏庭に当たる場所に、広大な芝生の緑地(上写真)が設けられていて、この広場に面してカフェやレストランなどが配置されている。都心では珍しいが、こうした配慮は当たり前のことだろう。新宿西口の超高層ビル街はこうした配慮に欠けて開発されてしまった。個々の超高層ビルが、こうした緑地を持ち、その各々が連続していくような都市計画があらかじめあれば、あの殺伐とした超高層ビル街はもう少しくつろげるスペースになったに違いない。

虎ノ門ヒルズ2階にある虎ノ門ヒルズカフェのランチはお薦めである。この立地からするとかなり安い(850円)。ご飯(大中小から選択、確か五穀米のような感じだった)、副菜2点、メイン1点が選択できる。わたしの地元吉祥寺であれば、多分、1200円〜1300円以上するようなランチであるが、なぜか都心スーパーの弁当代ほどで食べることができる。コーヒーは100円追加すればよいが、味の方はわたしの好みではなかった。



# by kurarc | 2017-09-14 13:23 | 東京-Tokyo