映画『海辺のポーリーヌ』とマティス

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夏になると観る映画がエリック・ロメール監督『海辺のポーリーヌ』である。ちょうど今の季節の海辺でのコメディー+恋物語であるが、今回観ていて気になったのは、この映画に登場するマティスの絵画、『ルーマニア風ブラウス』(1940)である。映画の中の色彩は、この絵画の色彩が参考にされ、さらに、ポーリーヌの身ぶりの中に、この少女のポーズが(偶然に?)再現された。

野獣派として知られるマティスであるが、この後期の作品には、その荒々しさも遠のき、身体は線と色彩によって単純にとらえられ、イラストに近い表現に変化している。そのせいで、身体の重さは消え去り、身体は模様の中に溶け込み、色彩の明るさとこの女性の内面の明るさが一体となっている。

2004年に国立西洋美術館で開催された大々的なマティス展に、この絵画も含まれていたのだと言う。この展覧会を見逃したのは痛かった。早速、古本でこの展覧会のカタログを捜し、注文した。

マティスの生まれは北フランス(ル・カトー=カンブレジ、ノール県)であるが、その色彩は、地中海の光を思わせる。とにかく、マティスが気になる。最近、フランス文化に興味が集中しているが、そして、また、マティスもフランス人なのであった。

# by kurarc | 2016-08-09 23:41 | cinema(映画)

花田清輝著『復興期の精神』から30年

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わたしがヨーロッパ、特にルネッサンス人に興味をもつようになったのは、花田清輝著の『復興期の精神』の力が大きい気がする。この著作を初めて読んでから、およそ30年が過ぎていた。講談社文庫のこの著作の終わりに、読了した日付を記しているが、その最初が1986年12月18日となっていた。25歳のときである。

なぜ、この著作を手に取ったのか、全く思い出せないが、ちょうど、沖縄滞在から東京に戻り、1年が過ぎようとしているときであり、父が病に冒されていることを知った頃と重なる。父が亡くなり、そのおよそ二ヶ月後の1987年12月21日に再度、読了している。そういう時期に読んだこともあり、強烈に印象に残っているのかもしれない。

30年経った現在でも、思い出しては、気になる章を拾い読みする。不思議なことではあるが、この中に登場するルネッサンスを中心とし、その時代以後の累々たる人物たちによく出会うのである。気がつくと、花田のこの著作の中に登場している人物なのだ。最近では、ヴィリエ・ド・リラダンに出会った(再会した)。

花田清輝が37歳で発刊した著作であるが、ペダンティックな内容と領域の広さに驚かされるばかりでなく、戦時中に著されたにもかかわらず、その自由なレトリックはいまだにと生き生きとして、いつ読んでも新たな発見がある。その後の学説により、若干の事実誤認はあるものの、人物の確信をとらえた軽妙な文体とユーモア、エスプリは、現在においても新鮮である。

もしかしたら、この著作の中に、わたしのすべてがあるのでは、と思わせるような、わたしにとって最も重要な一冊である。

# by kurarc | 2016-08-08 22:37 | books

トランペット・マウスピース DENIS WICK Trumpet4

あれほど適合していると思っていたシルキーのマウスピースNo.12が、最近、どうも調子が悪い。そのかわり、現在使用しているトランペット、ベッソンMEHAに付属していたDENIS WICK Trumpet4というマウスピースが、偶然ではあるが使い心地がよい。(前のトランペットの持ち主が使用していたものらしい)

DENIS WICK Trumpet4は、シルキーNo.12よりほんのわずか大きく、カップが深い。その分、カップの断面形状も、なだらからな曲面を描いている。

アマチュアは、マウスピースを大きくしていくことは、冒険が必要である。大きいマウスピースは唇に負担がかかる。よって、安易に大きいマウスピースを使うことは慎まなければならない。しかし、大きいマウスピースは、唇をよく振動させるから、音は大きくなり、音色も華やか(ブリリアント)になる。

新しいマウスピースをさがす時期に来たのかもしれない。

*大きなものにするのか、あるいは、小さくするのかを検討しなければ。

*下に、DENIS WICK HPより、DENIS WICK Trumpet4の仕様を引用しておく。

DENIS WICK Trumpet4

Description:
Diameter: 26.84 mm
Cup Diameter: 16.50 mm
Rim Width: 5.17 mm
Bore Size: 3.74 mm
Back Bore: Barrel

Good all-rounder. Based on an old Viennese design, this was produced with the co-operation of Howard Snell, former principal trumpet (1968-1976) of the London Symphony Orchestra.

# by kurarc | 2016-08-06 22:23 | trumpet

日常の中のデザイン13 STANLEY 水筒

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コーヒー、カフェ・オレやチャイなどを持ち歩くために、STANLEYの水筒(ネイビー色の750cc)を購入した。こうした保温水筒では、THEMOSが有名だが、わたしがもっていたTHEMOSは中身が漏れるのでSTANLEYに買い替えたのである。

THEMOSや日本のメーカーのものは、注ぎ口に工夫がみられ、片手で注ぎ口をオープンできるものなど、一見、便利そうなのだが、こうしたものはその部分が弱点となり、耐久性に欠け、その結果、漏れに通じてしまうと思われる。

その点、STANLEYは一昔前の水筒そのもので、水筒のキャップはカップとして使用できるデザインである。注ぐためには、2回、キャップを回転させる労力が必要だが、こうした原始的な水筒は、まず壊れるこがないし、漏れることもなく、鞄の中に入れても安心して持ち運びができる。

水筒で肝心なのは、その保温性と漏れないという堅実性であろう。これが守れなくて、いくら新しいデザインをしても無駄というしかない。STANLEYは、あえて、昔ながらのデザインを守りながら、確かな製品を販売する、というコンセプトなのだろう。この水筒は、山歩きのときにも重宝しそうである。

# by kurarc | 2016-08-04 23:05 | design(デザイン)

MADREDEUS Lisboa

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ポルトガルの音楽グループ、MADREDEUS(マドレデウシュ)の”Lisboa"というCD(2枚組)を久しぶりに聴いた。1991年、4月30日のリスボンのコリセウでのライブ録音である。

このライブは、マドレデウシュ初期の活動の集大成とも言えるCD。改めて聴くと、マドレデウシュの中で、もっとも優れたCDと言えるような気がした。

このCDはタイトルからもわかるように、リスボンという都市(永遠の都市と彼らは呼ぶ)を主題としたCDであり、音楽である。CD1の2曲目、”A CIDADE "(都市)とは、リスボンのことに他ならない。

彼らの音楽には、彼ら特有のノリがあり、そのノリはどこに起源があるのかわからないが、ポルトガルのバナキュラーな音楽の中にあるのでは、と予想される。それは、もちろん、ロックなどの音楽ではなく、エスニックな音楽の現代への翻訳のように感じられる。

わたしは、1995年にポルトガルを訪れた際、このライブの流れを汲むコンサートを体験することができた。(コンサートは、1995年8月17日)会場はケルーシュ宮殿というリスボンから電車で30分?程度いった静かな宮殿内の敷地であった。日の暮れる夜の10時頃からコンサートがはじまり、終わったのは深夜0時頃だったと思う。最終電車でリスボンの宿に帰った記憶がある。

このコンサートは忘れられない想い出となっている。野外でのコンサートであり、コンサートホールでは経験できない官能的な美しさを体験することができた。

日本ではこのような体験をすることは滅多にない。彼らのシンプルでスアブな(ソフト)な音楽は、ポルトガル、リスボンの光景と一体となり、心地よい響きの記憶として残っている。そのコンサートの経験を、このCDを聴くたびに想い出すのである。

# by kurarc | 2016-08-02 00:07 | music